歯周病はクリニックで治す病気ではありません。治療の要は毎日のセルフケアにあり、歯科医院の役割はその補助とチェックです。そして歯周病との付き合いは生涯にわたるため、長期的な戦略と見通しが欠かせません。この記事では、虫歯がない方ほど歯周病リスクが高くなる理由、女性がホルモンの影響で受けやすい影響、有病率は男性のほうが高いという公的統計の事実、そして「一度落とした歯石は、セルフケア次第で二度とつかなくすることができる」という考え方について、文京区・後楽園・春日エリアの歯科医院である後楽園春日たなべ歯科の院長・田邉龍介がお伝えします。
こんにちは。文京区本郷の「後楽園春日たなべ歯科」院長の田邉龍介です。
今日は、歯周病について、私が診療の中で最もお伝えしたいことを書きます。一般的な解説とは少し違う内容かもしれませんが、これが私の考えです。
歯周病との付き合いは、生涯にわたります
歯周病は、一度治療すれば終わりという病気ではありません。診断された時点から、生涯にわたって付き合っていくことになります。
これは悲観的な話ではなく、前提の共有です。数か月で完結する治療ではないからこそ、その場しのぎの対処ではなく、長期的な戦略と見通しが必要になります。
10年後、20年後にご自身の歯で噛めている状態を目指すのであれば、今どこにいて、どこへ向かうのかを把握しておく必要があります。この記事では、そのために知っておいていただきたいことをお伝えします。
歯周病はクリニックで治す病気ではありません
歯周病治療の要は、毎日のセルフケアです。歯科医院が行うことは、その補助とチェックにすぎません。
これは、医院に来ていただく必要がないという意味ではありません。むしろ逆です。ただ、来院して処置を受けさえすれば治る病気ではない、ということをまず知っていただきたいのです。
1か月のうち、当院で過ごしていただく時間はせいぜい1時間程度です。残りの約720時間は、患者さまご自身のセルフケアにかかっています。どちらが結果を左右するかは、考えてみれば明らかです。
だからこそ当院では、クリーニングを行うだけでなく、歯ブラシの指導に力を入れています。
虫歯がない方ほど、歯周病のリスクがあります
意外に思われるかもしれませんが、虫歯になりにくい方ほど、歯周病が進行してから見つかることがあります。
理由はシンプルです。虫歯は痛みが出るため、歯科医院に足を運ぶきっかけになります。一方、歯周病は初期から中等度に至るまで、自覚症状がほとんどありません。痛みもなければ、日常生活に支障も出ません。
そのため、虫歯で困ったことがない方は、歯科医院に通う習慣そのものがないまま年月が過ぎ、気づいたときには歯を支える骨がかなり失われている、という経過をたどることがあります。
「私は虫歯がないから歯医者は必要ない」という考えは、歯周病に関して言えば、必ずしも当てはまりません。
女性はホルモンの影響を受け、歯周病リスクが高くなりやすい
歯周病のリスクには、性別による違いもあります。女性は、女性ホルモンの変動によって歯ぐきの炎症が起こりやすくなる時期があります。
思春期、妊娠期、更年期といったホルモンバランスが大きく変化する時期には、同じ量の歯垢でも歯ぐきが腫れやすくなることが知られています。歯周病菌の中には、女性ホルモンを利用して増殖しやすくなる種類があるためです。
ご本人のケアが不十分だからではなく、体の条件として炎症が起こりやすい時期がある、ということです。だからこそ、若いうちから「骨の貯金」をしておくことに意味があります。
逆に言えば、こうした時期があらかじめ分かっているということでもあります。いつリスクが上がるかが読めるなら、その前に備えることができます。これも、長期的な見通しを持つことの意味のひとつです。
一方で、有病率は男性のほうが高いという事実
ホルモンの影響という点では女性にリスクの高い時期がありますが、集団全体で見ると、歯周病の有病率は男性のほうが高いことが分かっています。
厚生労働省の令和6年歯科疾患実態調査によると、4mm以上の歯周ポケットを有する者の割合は、男性52.9%に対し女性43.7%でした。さらに重度の目安となる6mm以上のポケットでは、男性15.4%に対し女性9.8%と、男性が女性の約1.6倍という結果です。
つまり、進行した状態ほど男女差が開いているということです。米国の大規模調査でも同様の傾向が報告されています。
その背景として挙げられているのは、生物学的な差ではなく、主に生活習慣と行動の差です。
- 喫煙率の差:喫煙は歯周病の最大級のリスク因子です
- 口腔清掃行動の差:歯みがきの回数や丁寧さに差があるとされています
- 受診行動の差:同じ調査で、過去1年間に歯科検診を受診した割合は男性より女性のほうが高く、特に20〜50代の男性で低い傾向が示されています
また、未処置のむし歯を有する者の割合も、ほとんどの年齢階級で男性のほうが高いという結果でした。50〜54歳では男性44.1%に対し女性22.3%と、2倍近い差が見られています。
つまり、男女差の多くは「体質」ではなく「行動」によって生じていると考えられているということです。
これは裏を返せば、行動を変えれば結果も変わるということでもあります。歯周病が、ご自身の取り組みによって左右される病気であることを、この事実はよく表していると思います。
今日の状態が、今後の人生で最も良いコンディションです
厳しい言い方に聞こえるかもしれませんが、これは歯周組織の性質を正確に表した言葉です。
歯周病によって失われた骨は、自然に元へ戻ることはありません。治療によってできるのは、進行を止めること、そして今ある状態を保つことです。一部の症例では再生療法によって骨の回復を図ることもありますが、適応は限られます。
つまり、今日という日が、これから先の人生でいちばん歯周組織の条件が良い日だということです。5年後でも10年後でもなく、今から始めることに意味があるのは、そのためです。
特に若い方には、まだ骨がしっかりしているうちに正しいケアを身につけていただきたいと考えています。歯周組織における「貯金」は、後から積み増すことが難しいものだからです。
だからこそ、行き当たりばったりの対処ではなく、今の状態を正確に把握したうえで、この先どう管理していくかという戦略が必要になります。生涯付き合っていく病気だからこそ、方針が定まっているかどうかで、10年後の結果は大きく変わります。
歯石は「しょうがなくつくもの」ではありません
ここが、この記事で最もお伝えしたい部分です。
歯ブラシで落としきれずに硬くなってしまった歯石を除去するのは、たしかに歯科医院の仕事です。歯石は歯ブラシでは取れません。
しかし、その先が重要です。一度きれいに落とした歯石は、セルフケア次第で二度とつかなくすることができます。
歯石は、歯垢(プラーク)が唾液中の成分と結びついて石灰化したものです。つまり、歯垢が残っていなければ、歯石は形成されません。歯石が再びついてくるということは、その部位に歯垢が磨き残されている時間があった、ということを意味します。
「歯石は誰でもつくもの」「定期的に取ってもらえばいい」と考えられている方は少なくありません。しかし当院では、そうは考えていません。歯石がつくかどうかは、日々の磨き方によって変えられると考えています。
だからこそ、クリーニングだけを受けて終わりにするのではなく、なぜその部位に歯石がついたのか、どう磨けば防げるのかを一緒に確認することが大切だと考えています。
定期検診に来ていただきたい理由
1. 歯ブラシのチェックのため
歯ブラシの指導は、一度受ければ身につくというものではありません。磨き方の癖は、時間とともに戻っていきます。
ご自身では磨けているつもりでも、特定の部位だけ毎回磨き残しているというのは、非常によくあることです。染め出しなどで実際に確認すると、ほとんどの方が「ここが磨けていなかったのか」と驚かれます。
定期検診は、この癖を定期的に修正する機会です。クリーニングを受けに来る場ではなく、磨き方を確認しに来る場だとお考えいただけると、通う意味が変わってくると思います。
2. 記録を残すため
もうひとつの理由が、記録です。
公的医療保険では、年に1回パノラマレントゲン写真を撮影することができます。当院では、この撮影を記録として活用することをおすすめしています。
記録は、時間が過ぎてしまってからでは作れません。3年前の骨の状態を、今から知ることはできないのです。
1年ごとの記録が積み重なると、骨の高さがどう変化しているか、進行しているのか安定しているのかを、客観的に把握できるようになります。これは、この先の戦略を立てるうえで欠かせない情報です。
歯周ポケットの数値、口腔内写真も同じです。今日の記録は、5年後の判断材料になります。
歯周病のセルフチェック
以下の項目に当てはまるものがないか、確認してみてください。当てはまる項目がある場合は、一度歯科医院でご相談いただくことをおすすめします。
- 歯みがきのときに歯ぐきから血が出る
- 朝起きたときに口の中がネバつく
- 口臭が気になる、家族に指摘された
- 歯ぐきが赤く腫れている、または下がってきた
- 歯が長くなったように見える
- 歯と歯の間に食べ物が挟まりやすくなった
- 硬いものが噛みにくい
- 歯が浮いたような感じがすることがある
- 歯がグラつく
- 歯科医院で数年以上検診を受けていない
これらはあくまでご自身で気づくための目安です。歯周病は自覚症状が出にくい病気のため、当てはまる項目がなくても進行していることがあります。
歯科医院で行う検査と治療の流れ
当院では、以下のような流れで進めています。
検査・診断
- 歯周ポケット検査(歯ぐきの溝の深さを測定)
- 出血の有無、歯の動揺度の確認
- レントゲン撮影による骨の状態の確認
- 口腔内写真による記録
歯周基本治療
- ブラッシング指導(当院が最も力を入れている部分です)
- スケーリング(歯ぐきの上の歯石除去)
- スケーリング・ルートプレーニング(歯ぐきの中の歯石除去)
再評価
- 基本治療後にあらためて検査を行い、改善の程度を確認します
- ここで改善が見られない場合に、次の段階を検討します
メンテナンス
- 状態が安定した後の、定期的な確認とケア
- 担当歯科衛生士制のもと、同じ衛生士が継続的に関わります
なお、これらの検査・治療の多くは公的医療保険の対象です。
当院の歯周治療について
当院では、歯周治療において以下を大切にしています。
担当歯科衛生士制を採用しています。同じ衛生士が継続して関わることで、前回どこが磨けていなかったか、どう変化したかを踏まえた指導が可能になります。
数値と画像で「見える化」します。歯周ポケットの数値、レントゲン、口腔内写真をお見せしながらご説明します。ご自身の状態を把握していただくことが、セルフケアの改善につながると考えているためです。
また、必要に応じて歯科用CT、マイクロスコープ、Er:YAGレーザーを用いた診査・処置を行っています。
よくあるご質問
Q. 歯周病は治りますか?
A. 炎症を抑え、進行を止めることは可能です。ただし、すでに失われた骨が自然に元へ戻ることはありません。治療の目標は、今ある状態を保ち、これ以上進行させないことになります。だからこそ、早い段階で気づくことが重要です。
Q. 歯石は定期的に取ってもらう必要がありますか?
A. すでについてしまった歯石は歯科医院で除去する必要があります。ただし、歯石は歯垢が石灰化したものですので、日々のセルフケアで歯垢を残さないようにできれば、新たに形成されにくくなります。「必ずついてしまうもの」ではありません。
Q. 歯みがきのときに血が出ますが、続けてもよいですか?
A. 出血は歯ぐきに炎症があるサインです。強く磨きすぎている場合を除き、適切な力加減で磨き続けることで炎症が落ち着き、出血が減っていくことが多くあります。ただし自己判断は難しいため、一度ご相談ください。
Q. 定期検診はどのくらいの間隔で受ければよいですか?
A. 状態によって異なります。歯周組織が安定している方と、リスクが高い方では適切な間隔が変わりますので、検査結果をもとにご提案しています。
Q. 若いのですが、歯周病の検査は必要ですか?
A. 歯周病は中高年の病気と思われがちですが、20代でも歯肉炎や初期の歯周炎が見られることは珍しくありません。骨がしっかりしている時期に正しいケアを身につけておくことは、その後の経過に大きく影響します。
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おわりに
歯周病について、私がいちばんお伝えしたいのは、この病気の主導権は患者さまご自身にあるということです。
歯科医院にできるのは、歯石を取ること、状態を測ること、記録を残すこと、そして磨き方をお伝えすることです。実際に日々のケアを行うのは患者さまであり、結果を左右するのもそこです。
裏を返せば、ご自身の行動によって変えられる余地が大きい病気だということでもあります。「歯石はしょうがなくつくもの」ではありません。
そして、この付き合いは生涯続きます。だからこそ、戦略と見通しが必要です。今どこにいるのかを知り、記録を残し、これからどう管理していくかを一緒に考えていく。それが当院の歯周治療における役割だと考えています。
文京区・後楽園・春日・本郷エリアで、歯ぐきの状態が気になる方、しばらく歯科医院に行っていない方は、どうぞお気軽にご相談ください。まずは今の状態を知り、記録を残すところから始めましょう。
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後楽園春日たなべ歯科 院長 田邉龍介
(後楽園・春日・本郷エリアより通院いただけます)